『あしたのジョー』全20巻 その3・ 闘う男たちと魔女葉子 |
その2・変わる人、変わらない人 からのつづきです。
『あしたのジョー』は言わずをしれた、闘う漫画だ。
ジョーの立ち向かう相手もまた、それぞれ印象深い。
中でも力石徹の存在は大きすぎた。作中にあっても、読者にとっても。

講談社コミックス『あしたのジョー』3巻より
ここで初めて丹下段平に授けられた秘技・クロスカウンター出る。
この試合を経て、彼らはお互いにとって無くてはならない存在に。
ジョーと闘うために、力石は壮絶な減量地獄へ。

講談社コミックス『あしたのジョー』8巻より
この場面、アニメでもたいそう印象的だった。底暗い洗面所の蛇口はすべて針金で縛られている。悪夢のようだ。
飢えと渇きで気も狂わんばかりの力石の後ろから、葉子が「冷水はよくないのよ」と白湯を手渡す。
「力石くんが人間らしい弱さを持っていることが嬉しいから」と言う葉子の涙を見て、我に返る力石。
手渡された白湯を、とてもゆっくりと、床に捨てるのだ。
そして力石、散る。


講談社コミックス『あしたのジョー』8巻より

講談社コミックス『あしたのジョー』8巻より
そうして今度はジョーの地獄が始まる。



講談社コミックス『あしたのジョー』9巻より
立て 立つんだジョー!

講談社コミックス『あしたのジョー』11巻より

今や力石徹はジョーにとって何にも代えがたい存在となっている。
ここから先、ジョーは憑りつかれたように自分の中の力石を守るためにすべてを捨てて闘いつづけているようにも思えるのだ。
力石だけではない。一度本気で戦った相手に対して、ジョーはものすごく思い入れる。

クロスカウンターそしてダブルクロスカウンターの応酬で破ったウルフ金串。
そのウルフをやっつけて見下したゴロマキ権藤を、ジョーは許さないぞ。

そしてそのウルフがまた、最後のホセ・メンドーサ戦ではジョーに夢中で声をかけている。
こんな風に強く相手を慕っていながら、実際は力石ともカーロスともたいして言葉を交わしていない。
闘うことでわかりあっているようだ。
思い出されるのが井上雄彦『バガボンド』宮本武蔵伝だ。
文字通り、命がけで剣に生きる男たちは、言葉ではなく刀を交わすことで深く相手を知り、惹かれあう。
そして心が通じ合ったそのとき、どちらかが死んでしまう。
例外的に、試合の後笑顔で別れた宝蔵院胤舜がカーロスにかぶります。
そのカーロスですよ。
力石の呪縛で相手を殴れなくなってしまったジョーの前に、鮮烈にカーロス・リベラが現れ、ジョーを揺さぶって正気にもどす。



ドサ回りの興業ボクシングに身を落としていたジョーは、宿のテレビでカーロスを知る。
誰もがラッキーパンチで勝ったと思った中、ジョーはその本質を見ていた。

講談社コミックス『あしたのジョー』11巻より

いや、正気に戻ったというよりは、夢見るお姫さまのようですね。
そして直情的に、白木ジムに乗り込んでカーロスの練習相手に志願。
恋するカーロスと拳を交えることで、カーロスにとってもまた、ジョーは得難い対手となるのだった。

講談社コミックス『あしたのジョー』12巻より

講談社コミックス『あしたのジョー』12巻より
カーロスは対戦相手の原島ではなく、ジョーと目を見交わす。言葉なんかいらないね。

講談社コミックス『あしたのジョー』12巻より
カーロスは対戦相手のタイガーではなく、ジョーと(以下略)
ところでアニメ版の中でも私の一番好きな場面が、カーロスがドヤ街にジョーを訪ねてきて、ふたり夜中の公園で戯れる美しいシーンでした。
「ヘイ ヤブキ!カモーン!ハハハッ」とすべり台に誘ってジョーを翻弄し、すべり落としたり。とても楽し気にじゃれ合うふたり。
この場面はアニメオリジナルでした。お見事。
おそらくこちらの場面がもとになっているようです。カーロス変なやつ。

講談社コミックス『あしたのジョー13巻より

滅茶苦茶な試合だけど、解説者もお客さんも嬉しい。

快く闘って別れた。 ・・・が。

ああ・・。
力石は死んで、ウルフは引退。カーロスは廃人に。
ジョーが闘ってわかりあった相手はその手にかかって足元に倒れていく。
次にジョーの前に現れた強敵・金 竜飛。
彼の経験してきた過去を知り、その地獄に気を吞まれるジョー。

講談社コミックス『あしたのジョー15巻より


そう思いながら、何故自分は立ち上がってしまうのか。
何故死んでも負けちゃならねえと思うのか。それは。

それはジョーとの闘いに殉じて死んだ、力石徹の存在だった。
今となっては力石は、ジョーの一部なのかもしれない。
そしてジョーもまた、力石に殉じて死に向かいつづけているかのようだ。
そしてここに、闘う男たちをすぐその傍らでずっと見つめ、その運命を翻弄する不思議な女・白木葉子がいる。
いつでも食えない女だけど、最初はただの食えない女だった。

劇団員を殴るわけにはいかないからと、ここだけ丹下のおっちゃんに振りかえて殴られ役をやらせる。ヒドい。

そして自分はぬけぬけと愛に満ちた優しい娘エスメラルダかい。

そりゃ言いたくもなるぜ。ジョーよく言った!

食えない女。
この試合で大事な金の卵はハリマオに潰される。
そして少年院で、ジョーの始めての試合のお膳立てをしたのがほかならぬ葉子だ。
だけど激しすぎる闘いの様子はお嬢様には見るにたえない。


ジョーはボロボロになりながら、葉子が逃げるのを許さない。そして戻る葉子。
この後も、何度も

カーロス・リベラ戦。

金 竜飛戦。

「帰ります」と言って出て行ったはずが、戻っていた。
もう一度、ホセ戦のときにも出て行って、また戻ってくるのだけれどもそれは次回に。
ジョーの闘いの最後を、一緒に見とどけたいと思います。

葉子はいったい何者なんだろう。何を考えているのか。ジョーをどこへ連れていこうとしているのか。
ちょっとメーテルと重なります。
次でとうとう最後ですよ。
その4・ 破滅への道 につづく

